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※この記事は、「松尾和博行政書士事務所」さまによる専門家監修記事です
インバウンド(外国人旅行客)が多く押し寄せている現在、既に「出張時にホテルが予約できない」という問題が起きています。また、2020年の東京オリンピックに向けて利用できる宿泊施設が不足するのではという懸念から、2017年に国も「住宅宿泊事業法案(通称:民泊新法)」を成立させ、民泊サービスに関するルールを定めました。
これは、空き家などの不動産をお持ちの方にとってひとつのビジネスチャンスと捉えられています。実際に空き家をリフォームし、民泊施設にするためにはどのようなステップを踏まなければならないのでしょうか。必要な知識や手続きなどについてご説明します。
※この情報は2017年9月現在のものです。住宅宿泊事業法による民泊は2018年6月から施行されます。
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1.空き家を利用した施設は「家主不在型民泊」と「家主居住型」で運用
実家を相続したなどの理由でその家が空き家であるなら、民泊新法の「家主不在型」ないしは「家主居住型」のいずれかで民泊施設にすることができるでしょう。
1-1.家主不在型民泊
実家が空き家となってしまい、それを活用して民泊とする場合、「家主不在型民泊」として届出をしなければなりません。
- 営業日数が年に180日以下であること
- 居住専用地域でなくともよい/(工業地域・工業専用地域以外)
- 宿泊者名簿が必要
- 避難経路などの掲示が必要
- 管理業者をつけなければならない
- フロントの設置の要・不要は自治体により異なる
といったところがポイントです。
日頃家主がそこに住んでいないのですから、何かしらのトラブルの際に対応できる行政への登録済みの管理者と業務委託の関係を結ばなければなりません。
たとえば
- 上限180日×1泊5,000円×4組
とすると、年間の売り上げは「最高でも360万円」です。この中からリフォーム費用や管理者への支払い(一般的に収益の30%)を行うとすると、数年でやっとリフォーム代金を“ペイ”できる格好となります。
よって、空き家を利用した施設はビジネス向きとはいいづらいでしょう。空き家にしておくのはもったいない、維持費が出ればそれでよい、というお考えの方に適しています。
しかしながら、管理は管理業者に委託しますので、日頃お勤めをしている方でも取り組みやすい民泊形態といえるでしょう。
1-2.空き家に自身が引越してゲストの世話ができるなら「家主居住型(ホームステイ)」
もしもより積極的に“ビジネス寄り”にしたいのであれば、その空き家にご自身が引っ越し、管理をご自身でしてみるのがおすすめです。
人と接すること、特に海外の方と接することを楽しいと感じられるのであれば、いわゆる「ホームステイ」の形で受け入れをします。
- 1泊を1営業日と計算し、営業日数が年に180日以下であること
- 宿泊客を泊めた実績日数を基準とする
- 複数の客室がある場合は、客室ごとに数える
- 居住専用地域でなくともよい/(工業地域・工業専用地域以外)
- 宿泊者名簿が必要
- 避難経路などの掲示が必要
- 管理業者をつけなくてもよい
- フロントの設置の要・不要は自治体により異なる
と、単純に「管理業者をつけない」というところが、家主不在型との違いです。
これなら管理業者への支払いがありませんので、リフォーム費用をペイできるまでの期間はぐっと縮まります。
3.「特区」ならば営業日数の上限なし
民泊にしたい物件が、いわゆる「特区」内にあれば、積極的にビジネスに活用することができます。というのも、上に記した「営業日数上限180日」という縛りがないからです。ニーズさえあれば、年間いつでも上限日数を気にすることなく営業できます。
その分といっては何ですが、
- 行政からの認定を得ること
- 事業者として手続きをしなければならないこと
- 火災報知機の設置が必要であること
- ○泊以上(特区により異なる)
- 居室は25平方メートル以上であること
と、本格的なビジネスとして“運営”していかなければなりません。
3-1.届出の方法
たとえ「国家戦略特区」に指定されていても、市ないしは県が新たに民泊用の条例を制定し、緩和していなければなりません。これがいわゆる民泊特区です。
東京都大田区、大阪府、福岡県北九州市は、2016年1月に特区民泊条例を制定しました。
もしも特区民泊条例を制定していない自治体内に民泊を作ろうとする場合は、簡易宿泊所の許可を取得する必要があります。
民泊といっても、
- 民泊特区での民泊
- 旅館業の簡易宿泊所営業許可を取得した民泊
- 住宅宿泊事業法(民泊新法)の届出を行った民泊
と、おおきく3つの方法があります。それぞれ、要件などが異なりますので、専門家に相談することをおすすめします。
3-2.いわゆる「特区」とは?
2017年9月現在、「特区」とされているのは、
- 東京都や神奈川県、千葉県成田市(東京圏)
- 大阪府や兵庫県、京都府(関西圏)
- 新潟市
- 養父市
- 北九州市
- 沖縄県
- 仙台市
- 愛知県
- 広島県
- 今治市
です。
正しくは「国家戦略特区」という名称ですが、これを機能させる「国家戦略特別区域法」の第13条(旅館業法の特例)では、以下のように定められています(国家戦略特別区域法│e-Gov)。
国家戦略特別区域会議が、第八条第二項第二号に規定する特定事業として、国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業(国家戦略特別区域において、外国人旅客の滞在に適した施設を賃貸借契約及びこれに付随する契約に基づき一定期間以上使用させるとともに当該施設の使用方法に関する外国語を用いた案内その他の外国人旅客の滞在に必要な役務を提供する事業(その一部が旅館業法(昭和二十三年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する旅館業に該当するものに限る。)として政令で定める要件に該当する事業をいう。
以下この条及び別表の一の四の項において同じ。)を定めた区域計画について、第八条第七項の内閣総理大臣の認定(第九条第一項の変更の認定を含む。以下この項及び第九項第二号において「内閣総理大臣認定」という。)を申請し、その内閣総理大臣認定を受けたときは、当該内閣総理大臣認定の日以後は、当該国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業を行おうとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、その行おうとする事業が当該政令で定める要件に該当している旨の都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあっては、市長又は区長。以下この条において同じ。)の認定(以下この条において「特定認定」という。)を受けることができる。
少しわかりづらいですが、簡単にすると
- 特区で民泊を営もうとする事業者は、3日~10日以上連泊する外国人旅行客に提供する施設・設備など要件を満たすようにつくり、都道府県知事の認定をうけること
となります。
ビジネスとして空き家など不動産を民泊施設としたいとき、その物件が特区にあるのであれば、行政担当課へ積極的に情報を得に出向いてください。
もしも時間がない、法的事柄は苦手、という方は特区民泊に明るい行政書士に聞いてみるのもよいでしょう。
4.民泊運営スタートに必要なことは、こんなにある!
空き家を民泊施設にして運用したいと思ったとき、何から手を着ければよいのでしょうか。
4-1.魅力的なエリアにあるかどうかのチェック
民泊にしようと考えているほとんどの方が、ビジネスチャンスとして捉えているのではないでしょうか。それならば、その空き家物件がどのようなエリアに所在するのかを確認してください。
- 駅やバス停に近い(他のエリアにも出かけやすい)
- まちあるきしたくなる魅力的な場所にある(観光スポットが近い)
民泊をビジネスとして成立させるには、最低限でもこの点をクリアする必要があるでしょう。ご自分が民泊を利用する側になって考えてみてください。ホテルより安く上がるが観光したい場所から遠く離れている場所に部屋を借りるでしょうか。
4-2.その物件自体が魅力的かどうか・コンセプト立案
もしも上記ポイントから若干“外れ”を感じるのであれば、物件の魅力を発見できればしめたものです。
- 外国人うけする「日本家屋」(和を感じる建物)
は特に人気です。これは特に難しいことではなく、日本を感じさせる和室があれば何とかクリアできるでしょう。
また、それ以外にも魅力のポイントを作ることは可能です。
- ○○が趣味の人が集う民泊
と、コンセプトを立案します。景色がよく平坦なエリアにある物件なら、「サイクリングが趣味の人向け」にできるかもしれません。
実際、サイクリストの聖地とされる通称「瀬戸内しまなみ海道」では、サイクリングを楽しむ人たちが使いやすい施設・サービス(自転車置き場・自転車宅配対応など)を準備した民宿やゲストハウスがあります。
このように、何かしらの特色を打ち出すことで外国人利用者のみならず、国内のお客さんをも惹きつけることができるでしょう。
4-3.ご近所さんの説得
民泊は、都市計画で定められる用途地域の「住居専用地域」で営業するものです。そのため、開業前にいわゆる「ご近所さん」を説得し、理解をしてもらう必要があります。
お隣の家に、知らない外国人が入れ替わり立ち代り出入りしている、という状態にストレスや恐怖を感じる方もおられるでしょう。事前に「これこれ、このような施設にします」と説得し、理解してもらうことが一番の難関かもしれません。
反対意見が多い中で見切り発車してしまうと、後に行政や司法に訴え出られることも考えられますので、この点は慎重に対策を立てなければなりません。
しかしながら、条件として近隣への「通知だけでよい」としているのは、福岡市・広島市です。通知すら必要ないのが東京都(23区・八王子市・町田市はそれぞれの条例で指定があり確認する必要がある)です。住民への周知義務がないのが一般的で、周知努力義務で済む、ないしは周知の必要すらない自治体も少なくありません。
4-4.行政との折衝
用途地域は、健全な生活のために設けられる全国共通のものです。しかしながら、地方行政の考え方や特別に守らなくてはならない環境保護の面から、個々に定める「特別用途地区」ないしは「地区計画」、「建築基準法第48条の但し書き(特定行政庁の許可)」を取り付けることができれば、緩和されることがあります。
魅力的な場所にあるか、コンセプトは何かなどを考えると同時に、自治体の窓口に民泊を始めたい旨相談をしてみてください。その空き家が活用できるかどうかは、その判断を待たなければなりません。
4-5.リフォームの必要性
空き家となっている家は、時としてその古さが味になることもあります。しかしながら、そのような家には断熱材が入っていなかったり、自由に使ってもらうキッチンやお風呂が古く清潔感を感じられないことも多々あります。
このような場合は、大規模なリフォームを行わざるを得ません。快適なホームステイ体験を提供し、今流行中の民泊施設紹介サイト「Airbnb」などで高評価を得てよい口コミを獲得することは、次のお客さんを運んでくる営業活動の一環です。
5.民泊へのリフォームは、各種の法にかなうものでなければならない
民泊(簡易宿泊所)として認められる建物にするには、次のような条件を満たさなければなりません。
5-1.設置位置
そのエリアの風紀を乱さないことを目的に、小学校~高校、公民館、図書館などの公的施設から100メートル以上離れていることが必要です。
5-2.建築基準法
空き家のこれまでの用途は「住宅」でしたが、「用途変更」という手続きを経て許可を受け、「簡易宿泊所」にしなければなりません。用途変更は建築士に相談すべきことです。
また、特区の代表例である大阪市では、
- 耐火性能
- 非常用照明装置
- 警報機設置
などを、その空き家が建ったときの基準でなく、現在の建築基準法に合うようリフォームすることを求めています(国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業の用に供する施設(特区民泊)の建築基準法上の取扱いについて│大阪市)。
5-3.設備の条件
民泊として快適な条件を整えるため、旅館業法により以下の条件が整っていなければなりません(詳細は自治体により異なることもあります)。以下は大阪市の「旅館業における衛生など管理要領」です。
【トイレ】
- 定員1~5=大便器1+小便器1
- 定員6~10=大便器2+小便器1
- 定員11~15=大便器2+小便器2
- 定員16~20=大便器3+小便器2
- 定員21~25=大便器3+小便器3
- 定員26~30=大便器4+小便器3
※男子用・女子用と区別すること
【洗面台】
- 定員5あたり1個以上
【風呂】
旅館業法では、「当該施設に近接して公衆浴場があり、入浴に支障をきたさない場合」に風呂は不要とみなされるケースがあります。とはいえ、不特定多数の人が入るお湯に浸かることを嫌う外国人も少なくありませんし、夜間ないしは早朝それらの公衆浴場を使うことができないこともあります。
これらの観点から、少なくともその民泊施設内にシャワールームの設置を行わなければなりません。
6.空き家リフォームで民泊を!その費用はいくら?
上で触れたとおり、空き家をリフォームし民泊にするためには、いくら新しい家でも「水周りリフォーム」が大きな金額となります。
たとえばトイレを4つ+洗面台を2つ設けるだけでも最低300万円はかかるでしょう。それに加え、断熱材を入れる、個室確保のためにしっかりとした壁を入れるとなると、数千万円にのぼるケースもあるはずです。
6-1.「住生活基本計画」による補助金も利用できることが
空き家をビジネス活用する際の手助けとして、住生活基本計画による補助金が受けられる可能性があります。補助金を受ける対象が個人の場合、3分の2は国と地方自治体が出し、残りの3分の1を個人が負担すればよいというものです。
しかしながら、上でも触れたとおり、薄利とはいえ民泊は一種のビジネスでもあります。空き家を民泊にしたら終わり、ではなく、その後の自助努力が欠かせません。安易に事をスタートさせるのはおすすめできません。
まとめ
空き家は人が出入りしなくなると一気に老朽化が進みます。相続した実家に誰も住んでいないのであれば、何らかの形で活用するのも老朽化を防ぐひとつの方法です。
空き家を民泊にしビジネスを興すことを考えていらっしゃる方もいらっしゃるでしょう。そのときのため知っておきたいことをご説明しましたが、大きなポイントは次の6点です。
- 空き家を利用した民泊は「家主不在型」「家主居住型」の2種。管理や利用者の世話を管理業者がするのか、そこに住む家主自ら行うのかの違い
- 一般的な民泊は、年間180日までの“営業”が上限。一方「特区」と簡易宿泊所の許可を利用した民泊であれば上限日数を気にする必要はない
- 民泊といっても、民泊特区での民泊・旅館業の簡易宿泊所営業の許可を取得した民泊・住宅宿泊事業法(民泊新法)の届け出を利用した民泊の3つに分類される
- 民泊はビジネスのひとつの形態。魅力ポイントの整理、ご近所さんの説得(自治体により異なる)、行政との折衝、リフォームなどスタートさせるまでのステップは多い
- 民泊リフォームに関連する法は「建築基準法」「消防法」「旅館業法」。耐火性能や警報機など安全に関すること、快適性に関することをクリアする必要がある
- 空き家を民泊にリフォームするためには、最低でも300万円程度必要。住生活基本計画による補助金で自己負担3分の1になる可能性も
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