「建築士資格制度の改善に関する共同提案」から考える今後の「建築家のあり方」

リフォーム・リノベーション

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少子高齢が、まっしぐらの日本において、どのような業界でも人手不足や人材の高齢化が問題となっています。建築の世界も同じで、去る6月5日、日本建築士会連合会と日本建築士事務所協会連合会、日本建築家協会が共同で「建築士資格制度の改善に関する共同提案」をまとめ、公表しました。

今回はこの「建築士資格制度の改善に関する共同提案」からみる建築士の原状と、将来のあるべき姿、そして直接私たちに関わる「リフォーム/リノベーション」について解説したいと思います。

本文に入る前に、この記事を読んでいるあなたへとっておきの情報をお伝えします♪
 

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「建築士資格制度の改善に関する共同提案」の骨子

現在建築士事務所所属の一級建築士は約14万人、そのうち6割以上を占めるのが50歳以上の人です。

一方、一級建築士学科試験の受験者数は、平成19年から平成28年の間に約4割減少しているという現状があります。

これを打破するため、以下のような提案をしています。

・受験に必要な実務経験を積むタイミングに柔軟性を持たせる

・受験に求められる実務経験の範囲が広がる

・実質セットだった「学科試験」「製図試験」を切り離し、製図試験合格までの道のりを短縮

・製図板やT型定規を使った製図試験は実際の設計業務に合わないため、CAD(コンピュータを使って製図)試験導入を検討

・既存の建築物活用、耐震・防火改修であっても建築士が設計に携わるよう推進

・建築にまつわる情報のアップデートのため、CPD制度をより活用する

CPD制度とは=継続教育のこと。土木業界では、技術者と呼ばれる人たちは毎年最新技術などについて学び、ポイントを満たすことで資格維持を図る。建築士事務所に所属する建築士の場合、建築士法により、3年に1度定期講習を受けるよう義務付けられている。

 

リノベーションに関する設計も、建築士が関わる必要性が高まる

建物の増改築や修繕については、その建物の規模によっては建築士がタッチしていないのが現状です。リフォームも工事については「リフォーム業者」に依頼するケースがほとんどです。

しかし、規模だけでなく、どこの柱や壁が家を支えているのかなど建物の構造や、それらを構成する部材の傷み具合によっては、単なるリフォーム業者に任せられない、危険、というケースもあるはずです。

これらの問題を排除するためにも、リフォームやリノベーションに際しては、新築以上に知識や経験が必要で、実際にそのような案件を手がけたことのある建築士が必要です。

 

■図1「建築士資格制度の改善に関する共同提案│日本建築士会連合会・日本建築士事務所協会連合会・日本建築家協会」

https://tokyokenchikushikai.or.jp/jigyo_event/20180529_yobousyo.pdf

 

リノベーションに対応できるのは、知識・経験豊富な建築士

基本的に大学の建築学科で学べるのは、一から建てる建築物についてです。

リノベーションは、「他の人が建てた家に手を入れる」ために、多くの建築物を見る・知ることが必要で、大学の教育だけでは対応できていないのが現状といえます。

その上、施主の求めるニーズは多様で、そこにある建物と施主の希望とをうまく擦り合わせるスキルも必要で、「一から建てる家」よりはるかに高い知識と技術が求められるのです。

実際、いわゆる大手ハウスメーカーが手がけるのがリフォーム止まりであることは、このことから来ているのでしょう。ハウスメーカーならではの規格内でできることといえばかなり限られますし、それを大きく外れることは規格内で収めるメリット(費用面/人件費面)が薄まってしまいます。

やはり、リノベーションという局面においては、知識と経験豊富な建築士の出番、といえます。

 

先にリノベーションについて学べる大学はない、とお伝えしましたが、実はその先駆けとなっている大学があります。東北芸術工科大学です。公式サイトにもそのことを前面に打ち出しています。

このような場で学んだ学生が、これからのリノベーション界を支えてくれることを期待しましょう。

■図2「建築・環境・デザイン学科│東北芸術工科大学」

https://www.tuad.ac.jp/architecture/

 

リノベーションは、その枠が広がり続けている

リフォームは、老朽化した建物や部分を新築当時の状態に戻す、つまり「マイナスをゼロにする」ことを指します。一方、リノベーションは規模の大きな工事を行うことにより「マイナスから一気にプラスに」向かわせるというプロセスを指します

このことからわかるように、住まいそのものの次元を高めるために行うのがリノベーションですので、それ相応の知識・技術が求められるのも頷けるところでしょう。実際、リノベーションを行った賃貸物件、または安全を担保できる範囲内でDIYを許可する賃貸が賃料を上げることに成功、人気物件となるケースも多く出てきました。

今、日本のあちらこちらで話題となっている「空き家問題」「近隣との関係の希薄の問題」も、このリノベーションにより解消しようとする動きが活発になっているのはご存じでしょうか。

たとえば、JR東日本の社宅であった団地をリノベーションした「高円寺アパートメント」は人気の賃貸物件です。ブロック塀を取り壊し、共用スペースである庭部分を芝生にし、1階にカフェやアトリエスペースを入れることで、近隣住民が自然と集う場所となりました。

そもそも人が多く行き交うエリアではありますが、都市部ならではの「コミュニティ性の低下」をもカバーしていることから、人気の賃貸物件となったのです。

 

■図3「高円寺アパートメント│ジェイアール東日本都市開発」

R-Lieto KOENJI APARTMENT
アールリエット高円寺。高円寺のまちの個性を凝縮したアパートメント。高円寺アパートメントは、店舗、アトリエ、住宅が交わり合う、新しいリノベーション賃貸住宅です。

 

そもそもの“かたち”であった社宅は、1965年(昭和40年)に建てられたものです。もともとファミリー向けの2LDKでしたが、これを、

・モニターつきインターホン

・エアコン

・洗浄便座つきトイレ

・インターネット回線

など、今の暮らしに合うように設計しなおしました。

また、JR中央線と高さがほぼ同じで、住まいにするには騒音の問題が生じがちな3階の部屋はあえて土間にし、アトリエ兼住まいとして貸し出しています。

このように、古い建物をただ刷新するだけでなく、コミュニティデザインの観点から行う手入れもまた、リノベーションの“醍醐味”です。

このような事例は、賃貸物件を所有している「大家さん」にとって、注目すべきものではないでしょうか。ご自身の持つ資産価値をより高いものとするためには、一部屋一部屋のみならず、建物全体やその街の特徴をつかみ、魅力的なものとする工夫が必要なのです。

 

その点での好例を挙げるとするなら、“マイナスの土地”を“お金を生む土地”に生まれ変わらせた「紫波町オガールプロジェクトにおける公民連携」が2018年日本建築学会賞(業績部門)を受賞しニュースとなりました。

10年間、町の負債となっていた空き地を人が多く集う場所に作り変えたまちづくりの一例ですが、日本建築学会が建物ないしは建築家ではなく、まちづくりプロジェクトを評価したことはとても異例なことでした。

■図4「紫波町オガールプロジェクトにおける公民連携│日本建築学会」

https://www.aij.or.jp/images/prize/2018/pdf/2_4award_001.pdf

これらの例は、単に住まいをリノベーションするだけに留まらず、コミュニティへの着目、稼げるまちづくりという側面からの検討が重ねられた結果です。

リノベーションとは、単に陳腐化した設備の入れ替えや間取りの変更だけでなく、近隣の住民や、まちのありかたとも深く関係しているものとして認識されはじめていることがわかります。

 

まとめ

今回は、将来の建築家のありかたを「建築士資格制度の改善に関する共同提案」から読み解いてみました。人口減、そして空き家増の日本において、リノベーションという新分野に長けた建築家がその存在感を増していくことが垣間見えました。

今回の記事で特にご記憶いただきたいのは、以下の3つのポイントです。

1.少子高齢化により、建築界も若手を欲しがっている

2.建築士の仕事は、新築の家のみならず、リノベーションへと広がりを見せている

3.リノベーションという概念は、今や「コミュニティづくり」「まちづくり」へと拡大していて、賃貸物件を持つ大家にとっては経営という視点からもこのことに注目すべき

4.安全・安心のリフォーム/リノベーションには、経験豊富な建築士の力が必要

 

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